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『生きる』ことと『戦うこと』 ~ある医官の旅立ち その2~

前回「『生きる』ことと『戦うこと』 ~ある医官の旅立ち その1~」に掲載された加藤 鉱の取材ノート。あるひとりの自衛隊医官の旅立ちを通じて、改めて戦争について問い直してみてください。

彼が医官として再び砂漠の地に向かう日が目前に迫った。
出国記念式典に彼は両親と姉の一家を呼び、その前日、青森近くの温泉で身内だけのささやかな宴を催した。
彼の父は、昔から酔うと饒舌になる。しかも話す内容はほとんど日本史か戦争の話である。一介の警察官でありながら読書量は膨大で、読み終わって本棚に無造作に積み上げられた本の量は、彼の子供の頃からの七不思議の一つだった。
彼を含め家族の誰も理解できない戦争の話を、「誰々の指揮する第何方面軍が何月何日からいつまでどこどこでこういう戦いをして、うち第何軍は何日までに何万人が戦死し、そのうち何万人はマラリアか餓死だった」と、詳細なデータを基に語り出すともう手がつけられず、何時間でも平気で話し続ける。家族は引きつった作り笑いを浮かべ、聞いている振りをするしかない。
その夜も気まずい空気を察し、彼の母が、父に突っ込みを入れた。
「戦争に行ってもいないのに、いつも戦争の話ばっかりして」
ますます気まずい沈黙が、数秒間。
深呼吸の後、わずかな怒気をにじませて、父が静かに語りだした。
「戦争に行ったもんは、自分が行ったところの事しか知らん。いろんな戦記を読んで来たが、あの戦争がいったい何だったのかを大きく見ているやつなんぞわずかしかおらん。だからみんな方向を見失う。
自分は4歳から台湾に渡り、親父の教え子だった高砂族(台湾少数民族の総称)の年上の友人たちの出征を見送り、特攻を見送り(注:彼の祖父は台湾で警察官兼学校教師をしていた)、戦後一文無しになって家族と日本に引き上げて来た。疫病や栄養失調で、あと少しで日本というのに船の中で死んでいった者もたくさんいた。本土の日本人は、物を売り惜しみし、みんな自分が食べて行くだけで精一杯の状態だった。わしらのような引揚者を差別し、まるで自分たちだけが戦争の犠牲者であるかのような口ぶりだった。それは、小さい頃から聞かされて育った日本人の姿と、まるでかけ離れていた。
戦争が日本人をそうさせたというのなら、あの戦争がいったい何だったのかを知る必要がある。だから本当の事を知るために自分は本を読んできたし、たぶんこれからも死ぬまで読む。分からんかも知れんが、分かるまで読み続ける」
72歳になる彼の父は日本人でありながら、日本人以上に日本人である、台湾人であり続けようとしていた。
そのとき、彼に小学6年生のある夜の記憶が蘇った。
珍しく外で酒を飲み泥酔姿で帰宅した父が彼の前で軍歌を歌い始めたのだ。5曲目の「異国の丘」にさしかかったとき、父は大粒の涙を流していた。初めて目にする父の涙だった。
彼の父は終戦時13歳なので、戦地に赴いたわけではないし、日本国内で空襲に見舞われたわけでもない。いわば戦争の直接体験者ではない。だから正直、軍歌と父の涙が、当時の彼の頭の中ではいま一つ結びつかなかった。父の涙はいったい何を意味するのだろうか。
それでもその時の光景は、以後青年期を過ごす彼の脳の片隅に、漠然とした疑問と共にひっそりと存在し続けた。恐らくはこの記憶が、彼がその後医官として国際貢献活動に従事する原点であったと、彼は思っている。
「あの戦争がいったい何だったのかを知る必要がある。だから本当の事を知るために自分は本を読んできたし、たぶんこれからも死ぬまで読む。分からんかも知れんが、分かるまで読み続ける」
いま、父の言葉を聞き、父が背負って来たものの重みが少しだけ分かった気がした。ショックだった。
出国1週間前の出来事だった。

父のこの言葉が、積年の疑問を緩やかに瓦解させたのだろうと彼はいま思う。
彼はようやく一つの結論にたどり着こうとしていた。それは皮肉にも、「答えは決してただ一つではない」という、逆説的なただ一つの答えであった。
サマーワの地で、彼は後輩である防衛医科大生ならびに研修医に宛てて書いた手紙の中で、そのことを以下のように表現し、伝えようとした。

(続く)

2009/01/15 04:26:27      | 編集部 | Comments (8) | Trackbacks (0)
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  1. Не думал, что найду это здесь.

    コメント by Vladimir — 2010/2/4 木曜日 @ 21:39:13



  2. Потрясающе! Вот не ожидал…)

    コメント by Vladislav15 — 2010/3/11 木曜日 @ 23:34:30



  3. Я писал что-то подобное, но у Вас тема более глубого раскрыта

    コメント by Vladislav26 — 2010/3/15 月曜日 @ 4:20:41



  4. Отличная статья. Краткость явно Ваша сестра

    コメント by Vladislav30 — 2010/3/16 火曜日 @ 7:03:21



  5. Спасибо за статью.. Актуально мне сейчас.. Взяла себе еще перечитать.

    コメント by Vladislav55 — 2010/3/20 土曜日 @ 21:32:01



  6. Спасибо автору блога за предоставленную информацию.

    コメント by Vladislav65 — 2010/3/24 水曜日 @ 6:43:36



  7. Интересно, но все равно остается вопрос . не думаю кого заботят проблемы

    コメント by usagnervesums — 2010/5/3 月曜日 @ 22:03:21



  8. Wow! Thank you! I always wanted to write in my site something like that. Can I take part of your post to my blog?

    コメント by Yaroslav3 — 2010/5/5 水曜日 @ 17:55:25




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