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ちゃいな215

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『生きる』ことと『戦うこと』 ~ある医官の旅立ち その3~

前回記事「『生きる』ことと『戦うこと』 ~ある医官の旅立ち その2~」からの続きです。日本を遠く離れ、イラクの地で医療活動に専念するある医官が出した『生きるとは』と『戦争とは何か』についての答えとは?

< 学生ならびに研修医諸氏へ>
日々を満たされていながら己の行く末に漠然と不安を感じ、更なる刺激と新鮮さを求めながらそれを満たせないでいる日本の君達に、老婆心ながら砂漠の地イラクより少しばかりのエールを送る。
既に子供の時代を終え、二十歳を過ぎた大人の駆け出しである君達にとって、今現在最も不安な事は何であろうか。
恐らくそれは、「何のために医師を目指しているのか」が見えない事なのかも知れない。
我々もそうであったように、いずれ患者に必要とされる崇高な職業に就く事が、頭の中では理解しながらも、受け身の系統講義やぬるま湯の学生生活、あるいは多忙で変化に乏しい研修医生活の中で、その事を体で感じる事は極めて困難である。ましてや、全ての食と物質、確かな平和、際限なき自由に満たされた今日の日本においては、他にそれを求める事も甚だ至難と言わざるを得ない。

私事ではあるが、私がこの医官という職業を選んだのには、実に些細なきっかけがある。
高校2年の夏、それまで医学部を目指すなど微塵も考えになかった私は、とある事故で右足関節脱臼骨折を受傷し、ある病院の整形外科に入院し手術を受けた。初めて見る医療の現場は、まだ吸収力を保ち得ていた我が感性に極めて強い影響を与えた。
しかし、それだけなら私はやはり当初の夢(航空工学)を歩んでいたであろう。
入院中、彼方の山に沈む秋の深紅の夕陽を屋上から眺めつつ、私はよくAMラジオを聞いていた。そこに何気なく流れた一つの曲が、私に医師という崇高な職業を目指す決心をさせた。それは、さだまさしの「風に立つライオン」という曲だった。
途上国での医療支援に携わった実在の医師をモチーフとして、さだまさしが創作したストーリーである。いわばフィクションではあるが、歌詞を記す。

突然の手紙には驚いたけど うれしかった
何より君が僕を恨んでいなかったという事が
これからここで過ごす僕の毎日の 大切な拠り所になります
ありがとう ありがとう
ナイロビで迎える三度目の4月が来て
今さら 千鳥が淵で昔君と見た夜桜が恋しくて
故郷ではなく東京の桜が恋しいと言う事が
自分でもおかしいくらいです おかしいぐらいです

3年の間あちらこちらを回り
その感動を君と分けたいと思った事がたくさんありました
ビクトリア湖の朝焼け 百万羽のフラミンゴが
一斉に飛び立つとき暗くなる空や
キリマンジャロの白い雪 草原の像のシルエット
何より 僕の患者たちの瞳の美しさ

この偉大な自然の中で病と向かい合えば
神様について 人について 考えるものですね
やはり僕たちの国は 残念だけれど何か
大切なところで道を間違えたようですね

去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました
こんなところにもサンタクロースはやって来ます
去年は僕でした
闇の中で弾ける彼らの祈りと激しいリズム
南十字星 満天の星 そして天の川

診療所に集まる人々は病気だけれど
少なくとも心は僕より健康なのですよ
僕は やはり来てよかったと思っています
辛くないと言えば嘘になるけど 幸せです

あなたや日本を捨てたわけではなく
僕は 今を生きる事に思い上がりたくないのです
空を切り裂いて落下する滝のように
僕は よどみない命を生きたい
キリマンジャロの白い雪
それを支える紺碧の空
僕は 風に向かって立つライオンでありたい

くれぐれも皆さんによろしく伝えて下さい
最後になりましたが あなたの幸せを
心から 遠くから いつも祈っています

おめでとう
さよなら

あれから、早17年。この歌は、ずっと私の支えであり、目標であり、バイブルであり続けた。そして今、こうして2回目の国際貢献活動に従事している。
私の中での「医師」とは、医療を目指したその瞬間から今日まで、この歌に描かれたような姿であり続けたし、今後もそれは変わらないであろう。それ故に私は、医官という職業を選択したのかも知れない。

臨床、研究、戦傷病、医療行政、空挺やレンジャー、様々な方向を目指す人がいる。外科的に切りたい人も、切りたくない人もいる。儲けたい人もいる。偉くなりたい人もいる。
どんな医業をなすにせよ、決して揺るがざる真実がひとつある。
それは、医療が、「『生きるとは何か』という根源的な問いに対し、ただ一つではない答えを、どこまでも探し求める学問である」ということである。
そのためにこそ、我々医師は日夜学ぶということをやめないのである。
そのためにこそ、今日も我々は敢えて国境を越えるのである。

PKO・人道支援・国際緊急援助隊等、自衛隊の海外での活動が行われるようになって、12年が経つ。
今、卒業生諸先輩方の並々ならぬ御尽力により、臨床・研究のみならず多種多様の選択肢が君達の眼前には用意されている。
その一つとして、国際貢献活動がある。
国際貢献活動は、今後の日本が世界の中の大役を担う上での大きな支柱となるであろうし、また我々医官が単に「医師」でなく真に「医官」として、国民や世界の付託に応え得るに必要なヒントを与える場であり続けるだろうと私は思う。
繰り返し言う。
医療とは、「生きるとは何か」という根源的な問いに対し、決してただ一つではない答えを、どこまでも探し求める学問である。
その答えは、決して教科書には載っていない。故に、自分の目で確かめるしかない。
世界は、嫌が応にもその現実の数々を我々の眼前に叩きつける。

・・・・・・・・・・・・・
戦争は、それを体験した人の数だけ存在する。
国際貢献は、そこに参加した者の数だけ存在する。
生きるとは何か。神とは何か。国家とは何か。そして戦争とは、平和とは何か。
そうした問いに対する、ただ一つではない答えを、どこまでも探し求めよう。
その事によってこそ、君達の内なる情熱は、輝ける現実の未来へと昇華されるであろう。
君達が、崇高な理念と高いモチベーション、そして泥臭い生命力を携えて、我々の後に続いてくれるであろうことを切に祈念する。

サマーワにて

2009/01/15 04:31:00      | 編集部 | Comments (0) | Trackbacks (0)
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